青城SS | ナノ
「ナマエ、手止まってる」
「止まってないよ。動いてるよ」

エアコンの効いた、物の少ない、綺麗に片付いた幼馴染みの部屋。目の前のテーブルには終わりの見えてしまった夏休みに対して、終わりの見えない量の課題。

「動いてるけどさ、スマホいじってて課題は終わんないだろ」
「課題はさぁ、後二週間あるでしょ?」
「まあ、そうだな」
「こっちはあと三日しかないんですよ」
「なにが?」

私はスマホ画面を一静へ向ける。一静は黙ってそれを眺めて、ゆっくりと私へ視線を戻した。

「水着買うの?」
「うん。日曜日にヨーコとりっちゃんとプール行くの」
「へー。三人でプール」
「いや、正確にはヨーコの彼氏とその友達と」
「ヨーコちゃんの彼氏って大学生じゃなかった?」
「そう! よく覚えてるねー。私ヨーコの彼氏と会ったことあるのに、未だに顔うろ覚えよ?」

一静へ向けていたスマホを持ち直し、水着の写真が並ぶページをスクロールさせた。
それを眺めながら思う。水着って高くない? 正直下着を買うときも高くない? って私は思っているわけだけれど。だって布面積少ないのに私のTシャツより高いんですけどどういうこと!? って思うわけ。まあ、この想いを一静に共有してもらおうとは微塵も思っておりませんが。はい。

「こういうのってネットより直接見た方がいいんじゃねぇの?」
「んーそうだけど、イメージ作り? みたいな。あまりにも無知で買いにも行けないじゃん」
「なら今から買いに行く?」
「え?」
「課題より切羽詰まってんだろ」
「いや、まあ。でも一静と買いに行くとか無理でしょー」
「なんで?」

なんで? なんでって聞きます? エアコン設定温度26度みたいな顔して、一緒に水着を買いに行くのに何の問題があるんですかって私に聞く? いやはや、時々あるんですよ。私の幼馴染みは。こういう無神経なところが!

「ふっつーに恥ずかしいわ!」
「ふーん? その恥ずかしい格好してヨーコちゃんの彼氏と友達と会うわけだ」
「それは、ほら。プールですから。みんな水着ですから」

そう口では言いながら、そうだな、プールめっちゃハズイなって、思い直す。

「俺に恥ずかしいなんて言ってたら、水着きて遊ぶなんて無理なんじゃない?」

いや、マジでそうだなって納得してしまった。だからスマホ画面を伏せて、もう水着買うなんて無理だなと思ったけれど、ヨーコとりっちゃんになんと言えばいいのかわからなくて、素直になれない。

「でもプールだし? もう約束しちゃったし?」
「日曜祭りあるの知ってる?」
「お祭り? あーうん。知ってるよ」

そんなに大きくないお祭り。小学生の時はよく二人で行きましたね。

「その祭りにバレー部で行くんだよね」
「へー?」
「りっちゃんって及川のファンでしょ?」
「そう! 本当によく覚えてんね!」
「一緒に行こうよ。祭り」
「いや、でも先約を断るのは……」
「二人に連絡してみなよ」

いやーでもなーと言ったところで、一静が引くことはなく、早く連絡しろと目が言っている。

「……わかった」

取り敢えず聞くだけね、聞いてみますかね。グループトークへ連絡を入れる。

“日曜日プール行く約束したじゃん? それはわかってるんだけど、一静がその日お祭り一緒に行かないかっていってるんだよね。(バレー部と一緒で及川くんもいます)”

すると直ぐにりっちゃんから返信が来た。

“及川くんいんの!? 行きたい! 死んでも行きたい!”
“生きてください”

そんな私の返信を無視してりっちゃんは、行きたいを連呼していた。

“行ってきな。プールは私と彼氏二人で行くから”

そんな返信がヨーコから来て、そのやり取りを一静に見せると、なぜか一静は口角を微かに上げた。いや、ほくそ笑んだ?

「なんで笑うの?」
「ん? 笑ってねぇけど?」
「えー? 笑ってたよ」

笑ってない、笑ってた。そんなやり取りを数回。まあいいやって思っていたら、一静が充電器にささっていたスマホを手にして、口を閉ざした。その顔を眺めていると、ふとした疑念がじわじわ私を侵略する。

「一静」
「ん?」
「まさか違うとは思うけどさ」
「うん」
「今からバレー部の人をお祭りに誘うわけじゃないよね?」
「ん?」

こちらを見ることなくスマホを眺め続ける一静。おいおい、なんで嘘なんてつくのかな? 一静くん!

誰のためだと思ってんの。

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